微熱のせいにして

1995年 ヨーロッパを巡る旅・北部編



スイスの首都ベルンに入り、
さぁ山を見に行こう!と思っていたその朝、
頭が重い。
微熱があるようだ。

ユースホステルの多くは清掃時間により
昼間の4、5時間は施設利用ができず、
連泊でもいったん外へ出なければならない。
体調不良を伝えれば対応してくれるかもしれないが
ちょっとあたたかいのとちょっとだるいだけ
ということにして
ひとまず駅を目指して宿を出た。

山の拠点、グリンデルヴァルドへ。

現在のぐうぐる先生に確認してみると、
インターラーケンで列車を乗換え・・

うむ、かろうじて地名は覚えているので
乗り換えたのだろう。
途中、通りすぎた湖の水の色が
本当に「水色」でびっくりしたのは覚えている。


グリンデルヴァルドに到着すると
ぱぁ~っと山々が見渡せ、というよりも
ぐるりと山に囲まれている。
おお、ついに来た、the Alps。

とはいえ、
ハイキングコースを歩くのは無理そうだ。
サンドイッチを買って、
どこか公園で山を見ながら食べよう。
山とは反対側の丘に向かって歩くことにする。

街の中心を外れて
民家同士の距離も少しずつ離れるころ、
カランコロンとカウベルが聞こえる。
うわぁ、本物のカウベルだー!
うわぁ~
あとはハイジが走ってきたら、完璧なんだけどな!


ゆるい傾斜の坂道を
ゆっくり、ゆっくり歩いて登るが、もうだるい。
目に入ったベンチに腰を下ろした。



サンドイッチを食べながら、山を見る。
この山の標高は3,967m、アイガーというらしい。
あんな中腹まで家を建てちゃうの?
距離感がよくわからないけど、すごいなー。

天気は良く、眺めは最高。
雲が山頂あたりを次から次へと流れてく。

あたたかくポカポカする。
ベンチに横になると本格的に動けなくなった。

あの雲が流れたら、山頂が見えるかも。
それが見えたら、もう、帰ろう。

しばらく眺めていたが、なかなか雲が切れない。

合間に青空が見える
さすがに次は見えるだろう。

雲が前後しながらやってきて
やっぱり山頂を見せてくれない。

帰りたいような、帰りたくないような。



気づいたら5時間ほど眺めていたらしい。
たぶんちょいちょい眠ってた。

山頂はやはり雲がかかっている。
でも、からだはなんとか動けそう。
アルプスの自然が注入されたことにして、
あきらめて街へ下ることにした。


スイスに全く罪はないが、旅の疲れか
なんとなくぼんやりしていた・・
いや、待って。

アルプスの山々はあまりに立派で
勝手に誇らしくなるし、

緑色のバリエーションが多く、湖の色が本当に水色で

移動するとドイツ語から
いつのまにかフランス語になっていて、

日本から履き続けたジーンズのお尻部分が
とうとう破れてしまい、
ジュネーヴの蚤の市で買い替えた。

チーズフォンデュは食べられなかったけど
ジャコメッティ(彫刻家)と
ホドラー(画家)の作品に出会い直して、
チューリヒのフラウミュンスターの
シャガールのステンドグラスが素晴らしいので、
ぜひ。


あとはハイジに怒られたら、完璧。

「ひろみのバカ!何よ意気地なし!
ネタがフワフワなのを微熱のせいにして!」




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絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。