髪型も、ボブ手前

1995年 ヨーロッパを巡る旅 ポルトガル編


コインブラから乗ったバスが
ナザレのバスターミナルに着いた
降りようとすると10人近い女性達が群がり
口々に話しかけてくる

彼女たちは頭をスカーフで覆い
ストールを羽織り、
膝上丈のミニスカートを何枚も重ね
腰には刺繍を施したエプロンをつけている
伝統的な衣装の着衣が
まだ残っているこの街の女性たちが
ウチに泊まれと言っているのです

ナザレは観光地で
人気の海沿いのホテルはだいたい満室
そこで
自宅の一室を民泊として提供している家があり
彼女たちはその客引きというわけです

ポルトガル語と英単語
ジェスチャーと筆談を駆使して
盛大にアピールしてくる

ウチは△△エスクードよ!
いや、ウチは▲▲エスクードにする!


事前の情報により
客引きがあることはわかっていました
宿は決めていないし
わたしの予算でリゾートホテルの宿泊は難しい
ですがここは
ホテルに予約があるから
そう言って、まずは一団をすり抜ける

ひとり、ふたり、女性がついてくる

ウチに泊まりなさい、△△Escにするから
いや、海辺に泊まりたいからそちらに行くよ
海辺のホテルはとっても高いよ!

そうしたことを繰り返すうち
だんだん金額が下がっていく
予算の範囲に近づいたところで
2泊にして希望金額を下げてみる

そんなに安くはできないよ
じゃ、いいや
まて、▲▲Escにできる
うう〜ん、部屋は見れる?見てから決める

女性について路地に入ると平屋の一軒家に着いた
8畳程度の一室を民泊用にしている
寝具は家庭用だけどきれいな状態
キッチン、シャワー、トイレは共用
使い方の説明を聞くが、頷きはしない

彼女が紙に値段を書いた
その時には
彼女が最初に提示した金額が半額になっていた
OK、ここにします


宿に荷物を置いて、まずは海だ!
住宅地をくねくねと
ひらける方へ向かって歩いていく


ポルトガルに入って3ヵ所目のナザレは
大西洋に面した長い砂浜、
白い壁に赤い瓦屋根の美しい街並みで
夏はヨーロッパじゅうから人が集まる観光地

その砂浜沿いには
ホテルやレストラン、土産屋が並ぶ
ケーブルカーで高台へ上がれば旧市街地があり
そこから見下ろす
街並みと海辺の風景の美しさが、人を呼ぶ

わたしが訪れたのは9月の中旬
夏には賑わうビーチも、そのころはとても静か
陽が傾いてきた砂浜に座って、ぼんやり

砂浜に座って、なんて
オランダのハーグ以来かな?

波打ち際をジョギングする人
犬と散歩するおじいさん
そう、そのおじいさんが話しかけてきて
砂に日本語の名前を書いたりして
お話した記憶


そんなところで
日本人の男性に声を掛けられました

近くにあるメルカド(市場)で
鶏の丸焼きを売っているんだけど
ひとりじゃ食べきれないので
よかったらシェアしませんか

行ってみるとなかなか大規模なメルカドだった
日本で見るより大きめの野菜、果物、魚介
パンや総菜、デザート、豆、ナッツ、ハーブ
それらがとにかく、安い

フランスからスペイン北部に入ったところで
うすうす感じていたのですが
ポルトガルに来ると
わかりやすく物価が安くなりました

この旅の前半、ヨーロッパ北部では
主にドミトリータイプの宿泊施設の利用
ベッドに支払った同じ金額で
ホテルの素泊まりシングルが取れるのです

鉄道のフリーパスを利用していた
移動手段もバスに変更

例えばリスボンからファーロへ、
約5時間の運賃は当時で、800円程度
イベリア半島をぐるりと回っても
1万円程度だったのです

宿代が、食べ物が、運賃が、
安いということで
あからさまに気持ちに余裕ができる
心理的にこんなに効果があることに驚く

物価が安いって、なんて素晴らしい!


棒に刺された鶏がぐるぐるグリルされている
半身を買って、瓶ビールをプラスする

近くのベンチに移動して
旅好きな彼がこれまで訪れた街の話と
わたしのこれまでの旅をつまみに
飲んで食べる


このころには
旅することが日常になっていました

換金して宿を決め、食料を買い食べる

街を歩き、住む人々をとおして
見たことのない風景、はじめてのみる風習
広げられる概念や世界観に
むやみに慌てることもなく、眺める

出会った人と
見聞きし考えたことをシェアする

そしてまた、移動する

日本を出てから5カ月経って
ショートだった髪型も、ボブ手前
そろそろ旅の終わりが視界の先に見え隠れ



あ、ちょっ
ちょっとまって!

あそこにあるのは、焼き栗屋さんじゃない?
ヨーロッパの秋の風物詩
食べてみたかったんだー!


わたし、帰国するんでしょうか



絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。