衝立と350円とフラメンコ

1995年 ヨーロッパを巡る旅 スペイン編


案内された席は最前列

ギターが弾けて手拍子が鳴る
歌が乗ってカスタネットが高く響く

パパパパパン、パパパパパン

ダンサーのステップが
タップのような軽やかさから
徐々に力が増していく

速さが増していく

パパンっ、パパンっ
パパパ、パパパ、パパパ

手拍子、したい!

けど、速い!

そしてリズムが取れない!

余計なことはやめようっ!

ダンっ
ダダンっ
ダッダっ、ダンダンっ!

ダンサーが踏み込む衝動を
からだでなんとか受け止める

眼を逸らすこともできない!

翻るスカートのすそにあおられる

熱、汗、手拍子!



セビーリャのバスターミナルから
真っ直ぐ目当ての安宿へ

部屋を見せてもらい泊まることにして
いつものようにパスポートを差し出す

すると、宿のおじさんが
パスポートを見て目を丸くした


your birthday today?

あ、Yes


そうか、そうかと
満面の笑みのおじさん

あ、そうだ、
教えてほしいことがあって
フラメンコを観たいのですが
どこか良いところを知りませんか

すると
おじさんの表情がぱぁっと明るくなり
わたしの両頬に
ちゅっちゅっとキスをして言った


誕生日、おめでとう!
いい席をとってやろう


なんだ、この子供気分は・・・

えっと、あの
よろしくお願いします



部屋に荷物を置き
開演まで街をぶらつくことにする

ローマ帝国の一部だったイベリア半島が
イスラム勢力に支配され
キリスト教勢が奪い返すまでの
700年を越える歳月に重ねに重ねた
歴史と文化が背景に

セビーリャは混沌さが極まって
混沌さで統一されているような街でした

イベリア半島、ということであれば
ポルトガルも同じような影響がありそうなのに
混ざり混ざって、もっと馴染んでいたような


この街は歴史的建造物もその後の建物も
それぞれの文化の片鱗が感じられる

大きな建物を囲む街並みは
黄色やオレンジ、ピンクと暖色多めでカラフル
夕陽がよく映える

異世界へ迷い込んだような
どこにも例えられないセビーリャ


まずはと訪れたカテドラル(大聖堂)の
精巧な彫刻と色彩で黄金に輝く祭壇衝立
重厚なのにきらきらのすばらしさ!

休憩に入ったカフェでオーダーした
スパニッシュオムレツとワインがなんと350円
物価安の異世界に乾杯!

いろいろ圧倒されちゃうラストは
劇場で案内された最前席のフラメンコ!


からだにダンダンとリズムが残ったまま
ぼうっとして宿の戻ると
おじさんがニヤっと笑ってお出迎え

いい席だっただろう?

えぇ、えぇ
スーパースペシャルでナンバーワンでした!
ほんとうにどうもありがとう



一夜明け
さぁ、今日はどこへ行こうかと思ったところで
これまた微妙なリズムでお腹が訴える

ゴロ、ゴロゴロ・・・

お嬢さん
お出かけはおやめなさい

わたしたちはどうやら
土地の水の洗礼を受けてしまったようです


なんと、これがウワサの水アタリ


それから訪ねたのは
宿のトイレのみ

バス・トイレは共同タイプ
前かがみで部屋を出るたび
目に入る街並みがちょっと素敵だったのと
たまに様子を見に来てくれる心配げなおじさんに
慰められました


結局
その後3日も洗礼に費やしたため
わたしのセビーリャ・メモリーは

衝立と350円とフラメンコ
(+下痢)

怒られる前に
上書きできるでしょうか


絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。