等間隔に立てたマッチ棒、4本

1995年 ヨーロッパを巡る旅 ポルトガル編


海の近くだったような気がするので
ナザレだったのか、コインブラだったのか

道のわきにドラム缶を縦置きして
天板に転がる栗の世話を焼くおじさん

あれは、かの有名な
ヨーロッパの秋の風物詩・焼き栗では!

食べたかったのです!

ドラム缶の前に立ち
これ、食べたいです、と日本語で言ってみる

もちろん、ポルトガル語は話せません

地元の言葉が話せない国では
これだけ覚えることにしていました
数字の1,2,3
こんにちは、すみません、ありがとう
あとはジェスチャーと筆談でカバー

”i” のマークの観光案内所や
ホテルのフロントでは英語が通じたので
チケット等のお話はそこですませば
あとはなんとかなるもので


おじさんに天板で転がる栗を指さし
食べたい買いたいを日本語で言ってみる

おじさんはなんでもないように
ポケットからコインを取り出しいくつか並べる
日本円にしてそれぞれ数百円程度

なるほど、金額で選べるのはありがたい
わたしは200円程度のコインを指さす

おじさんはにこっと頷いて
新聞紙を三角錐にくるっと丸め
ちびスコップで栗をすくうと新聞包みにザッと入れる

わたしはポケットから
200円程度のコインを取り出して
おじさんに渡す

ほこほこの栗の詰まった新聞包みを受け取り
Obrigada(ありがとう)と言う

おじさんもObrigadoと言う


それまでの旅で
自分がその土地にとっては異国の人であり
言葉が話せないことによるコミュニケーションが
楽しい時もあれば
ストレスに感じること、こちらの方が多いですけど

そう感じていたわたしにとって
この一連のやりとりはあまりに自然で
ストレスが一切、なかったのです

むかしから
いろんな国の人たちと接してきた国だからか
懐の深さ、ゆとりと安らぎが
ポルトガルにはありました


首都リスボンについて宿を取り
まずは行ってみたかったロカ岬を目指します
ユーラシア大陸、最西端の岬!

訪れる理由としてはこれだけでも十分ですが
事前に読んでいた小説
宮本輝著『ここに地終わり海始まる』
このタイトルは
ロカ岬にある石碑に刻まれている言葉
ここから海が始まる
それを体感してみたかったのです


リスボンから日帰りが可能で
中継地であるカスカイスまでは列車で
そこからはバスに乗り継ぎ、岬へ向かいます

バスで日本人の男性とご夫婦と乗り合わせました
博物館に勤めているという彼から
はく製の作り方をへ~ほ~と楽しく聞くも
お天気がいまひとつ・・
曇り空に向かって晴れ間を祈りに祈るけれど
近づくにつれ、もう嫌な予感しかない


岬につくとあたり一面、真っ白

白?

こんなに!?


かろうじて足元の緑地帯がわかる
視程5メートルもない
展望台と思われる方へ歩くと
柵が見えたがその向こうは
不透明の、白

それはイコール、崖からの海
足場がない、恐ろしくて足がすくむ


立ちすくむ日本人4名の落胆ぶりは
画用紙に接着剤で等間隔に立てたマッチ棒、4本
(なにそれ)
もう、何に例えたらいいかわかりません


に、日本からーっ!
来たんっですけどぉーっ!

どれだけ遠くからの来訪者を迎えようと
霧は聞く耳をお持ちでないようで

もんやりした白い世界で石碑を間近で確認

「ここに地終わり海始まる」って
書いてあるらしいんですよー!

海、始まってないですーっ!

霧が始まってますーっ!


やり場のない気持ちを抱えたわたしたちは
仕方なく次のバスが来るまでカフェに入り
店員さんに慰めてもらいながら
コーヒーを飲みました

木製のテーブルに、木製の椅子
向かい合い、コーヒーをすする
4本のマッチ棒

次、来るときは晴れですよね、絶対!

ユーラシア大陸最西端のリベンジが
難しいことはわかっていながらも



旅行あるあるとはいえ、思い返すと未だに
なんとも残念な気持ちになりますけど
なんとか笑い飛ばそうとする善良なるマッチ棒4本が
可愛らしくて仕方ありません

あの時間をシェアできるひとがいて
本当によかった

マッチ棒のみんな、ありがとう!





絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。