せっかくヨーロッパに行くなら
写真集が作れるくらい撮ってきたらいい
師匠は言いましたが
どこまで本気だったのかはわかりません
当時、まだ銀塩フィルムで撮る写真が主流で
スピード仕上げを売りにしたミニラボがあり
わたしはそこでアルバイトをして
旅費を貯めていました
お客さんの中に
モノクロフィルムの現像だけを
依頼する人がいて
聞くと、プリントは自宅でするという。
以前は新聞社で報道写真を撮っていたが
自分の作品を作るため独立した写真家でした
どんな写真を撮るのですか
どんなカメラで撮っているのですか
店頭で短い質問を重ねるうち
興味がどんどん増していき
ヨーロッパに行きたいと思っていて
写真も撮ってみたくて・・
どんなカメラがいいでしょうか
どういうものを撮りたいの
風景とか・・、そこに住んでいる人
とかでしょうか・・
スナップという感じかな
では、このカメラはどうかな
現像の後は
どんなふうに仕上げるのですか
自宅の部屋を暗室にして・・
モノクロプリントの仕方は・・
道具、材料、
シャッターを押すまでの知識、
プリント作業の様子を
考えを、潮流を
師匠は惜しみなく
注ぐのではなく
ただ見せてくれました
わたしはカメラを買い
押入れを暗室にして
プリント作業を重ねて
かたっぱしから吸収していきます
そうして、いよいよ旅に出るわたしに
どうせなら
向うの出版社に写真をみてもらっておいで
面白そうにニヤっと笑って
師匠はいつも
わたしの脳ミソでは
到底思いつかないことを言うのです
えええっ、またまた師匠、
日本でだってまだ作品発表もしてないのに
見てもらえるわけないじゃないですか
そうは言いつつ素直なわたし
真に受けるって、素晴らしい
そうして、リュックにカメラとフィルム、
色鉛筆とスケッチブックを詰めて
旅にでました
調べる限り、当時のヨーロッパで
現像からプリントアウトまでの工程、
時間、価格&わたしの語学力!
トータルで考えると
日本で行うほうがスムーズだとして
旅で撮りためたフィルムが溜まると
日本の師匠に送ります。
現像から簡易的にプリントアウトしたものを
パリに送り返してくれる
これを何度か繰り返して
パリ滞在も終盤に差し掛かるころ
イギリス、オランダ、ドイツ・・
ついこの間切り撮った風景が
目の前に並べられている
さて、どこの出版社に行くか
もう、どうせなら
一番カッコいい表紙の雑誌にしようと
ヤケ気味に本屋に行きました
壁いっぱいにカラフルな雑誌が並んでいる
そのうちの1冊に
街なかを歩く男性が
モノクロで収められていた
かっこいい
これにする
写真を貼り付けた模造紙をたたんで抱え
控えた住所へむかう
からだ中にドクドク鼓動を感じながら
メトロに乗って最寄り駅から通りを探し
ここだ・・
見つけたけど
見つけたくなかったような
近づく、けれど、
そこから足が動かない
中を伺うと
入口に受付のようなカウンターに
男性と対応する女性が向かい合っている
少しほっとして、通りすぎる
戻って前まで行くものの
今度は足が止まらない
通りすぎる
まるでドラマのように入れない!
か、帰る?
でもそしたらまたこなきゃ
あああ
ああああああ
そうして何度めかの行ったり来たり
もうっこんなの、
もう1回するのなんて、イヤだっ
行け
行くんだ、わたしっ
歩きだす、もう、知らん!
ボ、
ぼンじューる・・
Bonjour!
女性が笑顔で言いました
もちろん
フランス語で込み入った話はできません。
いつものように、英語は話せますか?と
フランス語で聞くと
わかればいいのだけど、と
頼りなさそうにいう彼女を押し倒すように
すみません・・っ
わたしにはこれしかっ
英語に起こして何度も唱えたセリフを一気に
わたしは日本からき
ましたヨーロッパを
旅しながら写真を撮
っています編集の方
にわたしの写真をみ
てほ
しいので
す
アポイントメントはありますか?
あ、通じた
あ、えっと、Non ノン
申し訳ないけど、そういったことは
電話でアポを取ってもらえますか?
電話番号を手元のメモに書いて
渡してくれた
あ
アポをとった
ら、みて・・も、
もらえるの、か?
冷たくあしらわれる
そんな妄想しかしていなかった。
決してそんなことはなく
きちんと対応してくれたこと
そして
ゴリ押しは有効ではないとわかった
うぃ、D’accord だこー
わかりました
Merci beaucoup
ありがとうございます
建物でると
息をした
わぁぁ
もうぉ
わぁぁ
前に進むには、体験するしかない
ああ
もう
いやぁ
もう
そう言いながら来た道をもどるわたし
この日の「えい!」がこの先、
何度も支えになるんだよ
あはは、よくがんばった
もちろん
もうひとふんばりあるのですが、
わたしも力が入っちゃったので
つづきは、また。
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