テーマはなんだい?

1995年ヨーロッパを巡る旅・パリ滞在編

この前のお話




心臓がドクドクして
受話器を握るが、番号を押せない
(また!)

ううう

始めたら
もうやるしかないのは
この前学習しました

ので

ええいっ!

Allô (もしもし)」

英語をやんわり断られているのに
英語でしか伝えられない
かといって
英語で長文を語られてもわからないけど
それでも必死な気持ちが伝わったのか
もらった日付と時間を
ゆっくり繰り返して、電話を切った。



当日
入口に立つと先日の彼女が
Bonjour!と迎えてくれた

名前を告げると
アポを取ったのね、よしよし
という風にうなずいて
前の訪問者がまだいるので
そのソファに座って待っててね、と
案内してくれました

しばらくすると
二人の男性が奥の部屋から出てきて
ひとりがひとりを見送り、
見送った男性がわたしに向かい
どうぞと奥の部屋に促してくれました

自己紹介をなんとかフランス語でするも、
英語のくだりでやんわり断られる(ですよね)
それでも英語で頑張ってみる(スミマセン)

模造紙を取り出し彼の前に広げました

一枚一枚、時間をかけて見てくれている
しばらくして

旅の道中ということだけど・・
テーマはなにかな?

テーマ、ですか。

テーマを設定して撮っていたわけではない
気になったところで
シャッターを押していただけだ
テーマ・・

ここにこうして貼られて
一枚一枚はわかるけど
何を伝えようとしているのか、
わからないな。
なにかテーマがあって・・
ほら、例えば
この写真も旅をテーマに撮られた写真で
この辺に・・・

彼は手元に置かれた雑誌を開き
ジェスチャー交え、話してくれる

それぞれの写真の切り撮り方として
良いとか悪いとか
そういったことの意見が聞けるのかと
思っていました


人に見せるということは。
人に伝えるということは。


そうか・・・
テーマはそう、考えていませんでした。
これから考えて撮ってみます
本当にありがとうございます


実際に話していたのは
おそらく正味、10分くらい
彼は、じゃぁこれで、と
名前が書かれたカードをわたしに渡すと
入口まで送ってくれた。



一気に力が抜ける

とにかく、座りたい
地図を開き公園をみつけ、向かう

彼はフランス語で話していた
でも何を言われているのか、わかった

いろんなことの配慮がなく
初歩的なことを指摘されたと思い、
すごく恥ずかしくもありましたが

相手にしたら
旅行中のなんの肩書もない日本の子が
撮った写真を見せに来ただけ、
にもかかわらず
一枚一枚ちゃんと見てくれて
丁寧に説明しながら伝えてくれた。

そのように対応してくれたことが
すごくありがたく、とても感激しました。



公園のベンチに座って
先ほどのやり取りを脳内でリプレイしていると
おじいさんがやってきました。

言葉もなく微笑みかけられ
座っていいか?ということかな、
空いていますよと隣をさした

おじいさんは腰かけ、
どこから来たのかと尋ねます

日本からきました。
絵を観るために、ヨーロッパを回っていて
今はパリに滞在しているんです。

そう、日本から
うん、ここには美術館がたくさんある

おじいさんの知っている日本の情報に
頷きながら返していると
観光スポットのないこんなところに
君はなぜいるのか、という展開になり
今さっき起こった出来事を話してみました。

じゃぁ、その写真を私にも見せてくれ

見てくれるの?
模造紙を取り出して広げる

おじいさんはやはり
一枚一枚、見てくれます

撮った場所など説明していると
テーマはなんだい?
と、おじいさんは言いました。

笑ってしまいました。
実は、同じことを言われてきたの!

おじいさんと一緒に笑った。

はっはっは
そうか、うん、一枚一枚はわかるけど
なにを伝えたいのか、わからないよ。
あ、でも、この写真は好きだな。
こっちは・・・

遠い国から来た子の撮った写真を
丁寧に見てくれ
感じたことを
こんなに率直に伝えてくれるなんて
なんなの、フランス!


おじいさんが伝えてくれていることは
やっぱりわかった
フランス語だったのか英語だったのか
もう、よく覚えていない

公園からメトロの駅に向かって歩くと
ちょうど日が傾き、
まっすぐ伸びた道と立ち並ぶ街路樹が
全部、オレンジ色で
なんだか涙がちょちょぎれました



部屋に戻って
もらったカードを見返し
わからない言葉を調べていくと
先ほど対応してくれた男性は
編集長でした

なんて国なの、フランス!


絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。