いやいや、まだまだ、にやにや

台風Ⅰ<ヤシ>, 300×252, 水彩紙, 水彩絵具



おきなわに住んでいれば
切っても切れない
台風

はじめのころは
なにもかもなぎ倒してしまいそうな
雨と風にビビりはしたものの

地域のみなさんの落ち着きっぷりを見ながら
ひとつ、ふたつ重ねて
対策の要領もわかってくると
なにかワクワクして
うっかり金ちゃんヌードル買っちゃうくらい
暮らしの一部となりました


ルートのせいか
市街地に住んでいるせいか
最近はなんとか停電も避けられていますが
それでも近づけば
じっと過ぎるのを待つしかない

電気が使えればそれほど問題ありません
停電って、分岐点
その時、なにをして過ごしますか?


一番長く住んでいた宮古島での
ある台風のとき

当時、住んでいた部屋は
角部屋で北を含めた3方向に窓があり
いつも開け放して風を通していました

そしてこの建物の北側に
てんぷら屋さんがありました

台風が近づき
渦巻の外側にかかってくると
風向きが南から東、さらに北になるところで
てんぷらのい~匂いを
連れてくるのです

あぁ~ 台風くるな~


いつもより涼しい北風は
夏に熱された体が休まるのですが
い~匂いが入りすぎて
胸やけしそうになるところで窓を閉め
停電に備えてアイスは食べておきます
(コレじゃないです)


風は徐々に西から南に回って
吹き返しに差し掛かり
どんどん強くなり、雨が付いてくる

このころになると外出は危険なので
自室に留まるとなりますが


ま、飲んでもいいんです

飲んで寝られればいいのですが
やっぱり怖くて、肝が及び腰

何かをして意識を逸らせたかったわたしは
台所を磨いてました



暴力的な風
ビシバシノックする雨でガタガタする窓

風雨でときどき
見える景色がホワイトアウトって

吹雪か!

吹雪の方がマシじゃ!

雨と風圧でサッシから吹き上げる水!
水芸か!
ちょっとウケる!

いやいやいやいや
せっせと新聞紙を敷き詰める

つけているテレビの音量が
風音に負けぬようだんだん大きくなる

そしてあるとき
電化製品がフッと力を無くす

雨風の存在感が増す

周辺を確認すると
通りを挟んだ住宅街にはまだ光が見える
そっちは点いているのか、ちぇっ


よし、じゃ、やろう

掃除の友・研磨剤ピカールを手に
台所のステンレスを磨きはじめる

白い液をぽとっと落として
スポンジや布で
円を描くように、ひたすらに


その時、思い出すのが20代のある時
ホテルの調理場で洗い物のバイトをしていました

百人単位の宴会はてんやわんやですが
少人数の食事会の日はヒマなので
下ごしらえの手伝いで
段ボール箱のジャガイモや大根、カボチャを
切りまくっていましたが
それもなかったある時

じゃぁ~、鍋、磨く?

はい、磨きましょうか

厨房には頭上の位置に
厚みのあるアルミの片手鍋がずらりと並んでいます
ひとつをとって磨き始めました

おれも磨いたな~、という
隣で下ごしらえをするシェフの話を聞きながら
せっせと手を動かします

全体的にくすみがとれ綺麗になり
わぁ~っと嬉しくなってシェフをみると
いやいや、まだまだ、と
にやにやしています

どれくらい手を動かしていたのか
しばらく磨いていると
部分的にキラリとしたのがわかりました

え?
そんなに光るの?!

さらに懸命に磨くと、なんということでしょう
あなた(鍋)が生まれた時の輝き

シェフの瞳もおお!と輝く

ピカピカにやり遂げたこと、なにより
きれいな鍋がとっても気持ちがよかった

それからというもの
くもったステンをみると
わたしへの挑戦状かな?
と、思わずニヤリとしてしまう
磨きのメモリー



さかのぼりすぎて
ちょっとどこにいるのかわからなくなりましたけど
台所です



黒ずむ布を取り換えながら
ひたすらに台所を磨いていると
ステンレスに映ったぼんやりした肌色の塊が
だんだん顔の輪郭がはっきりしてきて
目や鼻のパーツまで見えてくる

鏡か!

鏡じゃないし台所なので
そのあたりでやめますが
3、4時間の没頭作業と達成感

いつのまにか台風も恐怖も北上して
程よく疲れ、ぐっすり眠ったのでした



最近の台風は
迷走したり、ルートもアチコチ
台風も働きがあって自然のこととはいえ
水をほどよくかき回し
海の上を走ってもらいたい


台所は、天気がいい日に磨くので






絵を描いて写真を撮り、文章にして、まわりのモノ・コトを描き留めます。